‘事務所通信’ 一覧
精神障害者の雇用を検討する企業が増加
◆障害者の法定雇用率が引上げに
企業が達成しなければならない障害者の法定雇用率(従業員に占める障害者の割合)は、一般企業については現在「1.8%」ですが、これが平成25年4月から「2.0%」へ引き上げられます。未達成企業は、不足する1人分当たり5万円を国に納付しなければなりません。
また、すでに障害者を雇用する企業については、障害者の雇用に関する状況の報告が毎年1回必要ですが、その義務が課される企業規模も変更されます。現行の労働者数「56人以上」から「50人以上」となりますので、該当する企業は注意が必要です。
◆精神障害者の雇用義務付けも検討
また、厚生労働省では「精神障害者の雇用義務付け」についての議論が行われています。
現行の法定雇用率は、身体障害者と知的障害者だけを
算定の根拠にしていますが、新たに精神障害者の雇用義務付けがなされると算定の仕方が変わり、雇用率が引き上げられる可能性もあります。
◆障害者雇用を経営に生かす
こうした制度改正への対応も含めて、障害者を積極的に雇用し、経営に生かそうとする動きも出てきています。スーパーでは開店前の清掃や品出し等で働いてもらったり、資本のある企業では、特例子会社を設立したりするところもあるそうです。
現在、人材紹介会社には求人依頼が殺到しており、対応の早い企業では、優秀な技能を持つ精神障害者を獲得しようと動き出しています。
精神障害には様々な種類や症状の程度があります。「精神障害者」といっても、接客のような仕事には向かないけれども、コンピュータのプログラミング能力が非常に優れているなど、企業が適材適所で雇用すれば貴重な戦力となる方も多くいるのが事実です。
◆社内体制の整備が不可欠
急 速な高齢化の進む中、今後の雇用戦略を考えるうえでは、こうした積極的な障害者雇用も検討してみる必要があるようです。ただ、精神障害者の約40%が採用 後6カ月未満で退職しているという厚生労働省の調査結果もあります。障害者の採用と労務管理については、企業の体制整備が不可欠でしょう。
従業員の健康診断をめぐる最近の動き
◆通過待ちの改正労働安全衛生法案
国会通過待ち(継続審議)となっている改正労働安全衛生法案は、職場のメンタルヘルス疾患増加に対応するため、健康診断に併せて従業員の精神的健康の状況を把握するための検査を義務付ける内容となっています。
この改正に対応するため、厚生労働省では、メンタルヘルスについて専門的な対応を行うことのできる医療機関を養成するための事業(外部専門機関選任事業)を始めることになったそうです。
これまで健康診断の場で医師による問診はありましたが、「その場で従業員の精神的健康の状況まで把握することは困難ではないか」といった議論もあったようです。実際の検査はこうした専門医療機関の利用も想定されているようです。
◆健保組合からの健康診断を医療機関に仲介するサービス
企 業の健康保険組合から受注した健康診断を医療機関へ紹介する仲介サービスについて、利用料金の下落が続いているそうです。健保財政の悪化に加え、新規参入 のサービス提供会社が増えたことが要因です。サービスの基本料金が1人当たり3,000~3,500円ほどで、5年前に比べて約3割も安くなっているとの ことです。
健保組合が医療機関へ独自に健康診断を依頼するよりも人件費が削減でき、仲介サービスを利用する健保組合は増加しているそうです。
◆「健康管理」は「コスト管理」
従業員が健康であればこそ、会社の生産性も高まります。長期休業者の発生や欠員補充に伴う新人の指導等は、他の従業員にも負担を与えます。
従業員の健康管理は、会社の安全衛生管理体制や健保財政等のコストに直接的・間接的に影響を及ぼします。今後の動きに注目したいところです。
1月の税務と労務の手続[提出先・納付先]
10日
○源泉徴収税額(※)・住民税特別徴収税額の納付[郵便局または銀行]
○雇用保険被保険者資格取得届の提出<前月以降に採用した労働者がいる場合>[公共職業安定所]
○労働保険一括有期事業開始届の提出<前月以降に一括有期事業を開始している場合>[労働基準監督署]
21日
○特例による源泉徴収税額の納付<前年7月~12月分>[郵便局または銀行]
31日
○法定調書<源泉徴収票・報酬等支払調書・同合計表>の提出[税務署]
○給与支払報告書の提出<1月1日現在のもの>[市区町村]
○固定資産税の償却資産に関する申告[市区町村]
○個人の道府県民税・市町村民税の納付<第4期分>[郵便局または銀行]
○労働者死傷病報告の提出<休業4日未満、10月~12月分>[労働基準監督署]
○健保・厚年保険料の納付[郵便局または銀行]
○日雇健保印紙保険料受払報告書の提出[年金事務所]
○労号保険料納付<延納第3期分>労働保険印紙保険料納付・納付計器使用状況報告書の提出[公共職業安定所]
○外国人雇用状況報告(雇用保険の被保険者でない場合)<雇入れ・離職の翌月末日>
本年最初の給料の支払を受ける日の前日まで
○給与所得者の扶養控除等(移動)申告書の提出[給与の支払者(所轄税務署)]
本年分所得税源泉徴収簿の書換え[給与の支払者]
最近の労働裁判からピックアップ
◆たばこの煙で安全配慮義務違反?
仕事中の受動喫煙が原因で病気になったとして、岩手県の職員男性が同県に対して損害賠償(約890万円)などを求めて訴訟を起こしていましたが、盛岡地裁は請求を棄却しました(10月5日判決)。
この男性は2008年1月ごろ公用車を運転した際、車内におけるたばこの煙が原因となって、鼻の痛みや呼吸困難が発生し、同年4月に「化学物質過敏症」と診断され、その後、2009年7月までの約1年間休職となりました。
裁判では、県が「公用車の少なくとも1台を禁煙車にしなかったこと」が、安全配慮義務違反となるかどうかが争点だったようですが、裁判長は「男性が呼吸困難を発症した2008年当時、残留たばこ煙にさらされないようにすべきだとの認識は一般的ではなかった」とし、安全配慮義務違反には該当しないと判断しました。
◆エンジニアの死亡は過労によるものか?
システム開発会社(本社:東京都)のエンジニアだった女性が死亡した原因は過労にあったとして、女性の両親が元勤務先に対して損害賠償(約8,200万円)を求めていましたが、福岡地裁は過労死と認め、約6,820万円を支払うよう命じました(10月11日判決)。
この女性は1998年に入社して福岡事業所に勤務し、2006年からシステム改修のプロジェクトに携わり、午前9時から翌日の午前5時まで働くこともあったそうです。2007年3月に自殺を図った後に職場復帰をしましたが、同年4月、出張先のホテルで致死性不整脈のため死亡しました。
裁判長は、2007年2月の時間外労働時間が127時間を超え、プログラム完成などの精神的緊張もあったとして、死亡と業務との因果関係を認めました。
◆契約更新拒否は解雇権の濫用か?
空調機器会社(大阪市)の元期間従業員4人が、有期雇用契約に上限を定めて契約更新を拒否されたのは解雇権の濫用であるとして、元勤務先に対して地位確認などを求めていましたが、大阪地裁はこの請求を棄却しました(11月1日判決)。
当初、4人は請負社員として勤務(6~18年間)していました。大阪労働局が2007年12月に「偽装請負」であるとして是正指導を行い、会社は2008年3月に4人を正社員として雇用(期限付き)しましたが、2010年8月末以降の契約を更新しませんでした。
裁判長は「解雇の手続きを踏まずに期間満了によって契約が終了する点に着目して有期雇用契約を申し込んだにすぎず、解雇権濫用とはいえない」と判断しました。
最新調査結果にみる残業代支払いと有休消化率の現状
◆所定外労働時間に関する調査結果
連合総合生活開発研究所(以下、「連合総研」)が、20~64歳の民間企業雇用者(2,000名)に対して2012年10月1~6日の間に行った調査によると、2012年9月中に所定外労働を行った人は39.1%で、平均所定外労働時間は38.2時間でした。
特に、男性の所定外労働時間を行った割合は55.2%と多く、平均所定外労働時間は43.0時間でした。
◆残業代支払いに関する調査結果
所定外労働を行った人のうち「残業手当の未申告がある」と回答した人の割合は35.3%で、未申告分の時間の平均は21.3時間でした。
未申告ありと回答した割合は、男女の正社員・非正社員を合わせた全体の約4割ですが、特に男性正社員に多く見られ、未申告分の時間は平均24.8時間でした。未申告の理由については、「働いた時間通り申告しづらい雰囲気」が36.3%、「残業代に限度がある」が24.2%でした。
残業手当の全額が支払われた人の割合は46.9%で、「4割以上6割未満が未申告」だった人が5.5%、「2割以上4割未満未申告」だった人が5.3%でしたが、まったく支払われていない人も6.3%に上ったそうです。
◆有休消化率に関する調査結果
上記調査において、2011年度に支給された有給休暇の消化率について尋ねたところ、「概ね消化できた」と回答した人の割合は、非正社員で約4割、正社員で約2割にとどまることがわかりました。
厚生労働省が2012年11月1日に公表した「就労条件総合調査」においても、2011年における正社員の有休取得率は49.3%で、前年比で1.2ポイント上昇して2年連続上昇したものの、「2020年に70%」との目標には遠く及ばない結果となっています。
◆賃金収入も回復の兆しなし
さらに、同調査において1年前と比べた賃金の増減について質問したところ、「減った」と回答した人が31.6%で、「増えた」と回答した人の23.7%を上回る結果となりました。